そのお気持ち、痛いほどよく分かります。しかし、その先入観は、胎内高原ワインを一口飲めば心地よく裏切られることになります。
結論から申し上げます。胎内高原ワインは、日本屈指の過酷なテロワールが生んだ「本物」のワインです。吹き荒れる強風「だしかぜ」と、スキー場のような急斜面が育むブドウの凝縮感は、他の産地では決して真似できません。
なぜ今、目の肥えたワイン愛好家たちがこぞって新潟の胎内を目指すのか。その理由と、最初に飲むべき「正解の1本」を、現地取材を重ねたソムリエがご案内します。


J.S.A.認定ソムリエ
年間100軒以上の国内ワイナリーを訪問し、生産者の声を届けることをライフワークにしています。最初は私も胎内高原ワインを「公務員の仕事」と侮っていましたが、現地でその過酷な環境と品質に圧倒され、今では熱烈なファンの一人です。
「公務員が造るワイン」の真実。なぜ胎内高原が注目されるのか?
「公務員が造るワイン」と聞いて、皆様はどのような味を想像されるでしょうか。おそらく、無難で特徴のない、いわゆる「お役所仕事」的な味をイメージされるかもしれません。
しかし、胎内高原ワイナリーの実態は、そのイメージの対極にあります。
2007年の設立当初から、胎内市(旧黒川村)が目指したのは、単なる観光客寄せの施設ではありませんでした。彼らが掲げたのは、「本場欧州に負けない本格的なワイン造り」という、自治体としては異例とも言える高い志です。
その中心にいるのが、醸造責任者の坂上俊(さかうえ たかし)氏です。坂上氏は市の職員でありながら、元地ビール醸造の経験を持つ異色の経歴の持ち主です。公務員ゆえの「予算の制約」や「年度ごとの計画」という壁と戦いながらも、坂上氏は品質への妥協を一切許しません。
私が現地を訪れた際、坂上氏が黙々とタンクの温度管理をしている姿を見かけました。その眼差しは、事務処理をする公務員のものではなく、紛れもなく「職人」のそれでした。胎内高原ワイナリーが全国的に注目される理由は、この「自治体直営という枠組みを超えた、狂気じみた品質への執念」にあるのです。
【結論】: 「自治体直営」という言葉だけで、選択肢から外すのはあまりにも勿体ないです。
なぜなら、私自身も最初は「どうせ町おこしの一環だろう」と高を括っていました。しかし、実際に飲んでみて、その考えは吹き飛びました。利益追求が第一の民間企業とは異なり、「採算度外視で手間をかけられる」という点が、逆に胎内高原ワインの強みになっているのです。
味の決め手は「だしかぜ」と「急斜面」。過酷なテロワールが生む凝縮感
では、具体的に胎内高原ワインの何が凄いのでしょうか。その答えは、胎内高原特有の過酷な自然環境、すなわちテロワールにあります。
キーワードは2つ。「だしかぜ」と「急斜面」です。


1. 強風「だしかぜ」が病気を防ぎ、農薬を減らす
胎内高原には、山から海へと吹き抜ける猛烈な風「だしかぜ」が常に吹いています。人間にとっては立っているのもやっとの強風ですが、ブドウにとっては最高の味方となります。
この「だしかぜ」が畑の湿気を常に吹き飛ばしてくれるため、カビや病気が発生しにくいのです。その結果、胎内高原ワイナリーでは、ボルドー液を中心とした減農薬栽培が可能となり、健全で力強いブドウが育ちます。この「だしかぜ」と「減農薬栽培」の関係こそが、胎内高原ワインのピュアな味わいの源泉です。
2. 急斜面が根を深くし、複雑味を与える
もう一つの特徴は、最大傾斜25度にもなる急斜面です。平地とは違い、急斜面は水はけが極めて良いため、ブドウの樹は水分を求めて根を地中深くまで伸ばします。
深く伸びた根は、土壌の様々なミネラル分を吸収します。これがワインに単なるフルーツの味だけではない、奥深い「複雑味」を与えるのです。坂上氏が実践する「引き算の醸造(補糖や補酸を極力しない)」は、この土地の個性が十分にブドウに備わっているからこそ可能な手法なのです。
【ソムリエ厳選】胎内高原ワインの種類と選び方。まずはこの1本から
「特徴は分かったけれど、種類が多くてどれを選べばいいか分からない」という方のために、ソムリエの視点で厳選した3本をご紹介します。
| おすすめ順 | 品種・銘柄 | 味わいの特徴 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|
| 1位 (Must Buy) | ツヴァイゲルト | スパイシーさと果実味の絶妙なバランス。凝縮感がありながら重すぎない。 | 初めて胎内高原ワインを飲む人。和食と合わせたい人。 |
| 2位 | メルロー | しっかりとした骨格と熟成感。長期熟成にも耐えるポテンシャル。 | 重厚な赤ワインが好きな人。週末にゆっくり楽しみたい人。 |
| 3位 | ヴァン・ペティアン | フレッシュな微発泡。ブドウ本来の甘みと酸味が生きている。 | BBQやキャンプで乾杯したい人。普段ワインを飲み慣れていない人。 |
迷ったらこれ!「ツヴァイゲルト」が正解の理由
もしあなたが最初の1本で迷っているなら、迷わず「ツヴァイゲルト」を選んでください。
ツヴァイゲルトはオーストリア原産の品種ですが、冷涼な気候を好むため、胎内高原のテロワールに完璧にマッチしています。実際、日本ワインコンクールで金賞を連続受賞(2013年、2014年)するなど、その品質は客観的にも証明されています。
黒胡椒のようなスパイシーな香りと、ベリー系の豊かな果実味。この2つが同居するツヴァイゲルトこそ、胎内高原ワインのフラッグシップと呼ぶにふさわしい1本です。
夕食が変わる。胎内高原ワインと和食の「極上ペアリング」
ワインを買っても、「合わせる料理が難しそう」と思っていませんか? 実は、胎内高原のツヴァイゲルトは、高級フレンチよりも「日本の家庭料理」にこそ真価を発揮します。
特におすすめしたいのが、「醤油を使った煮込み料理」とのペアリングです。
- ぶり大根
- 豚の角煮
- 筑前煮
ツヴァイゲルトが持つ特有のスパイシーさは、醤油や出汁の風味と驚くほど調和します。また、程よい酸味が脂っこさを切ってくれるため、豚の角煮や脂の乗ったブリとも相性抜群です。
高いチーズや生ハムを用意する必要はありません。今夜の夕食が「ぶり大根」なら、ぜひツヴァイゲルトを開けてみてください。いつもの食卓が、一瞬でレストランの味に変わる体験をお約束します。
よくある質問 (FAQ)
まとめ:まずはツヴァイゲルトで、胎内の風を感じてください
胎内高原ワインは、単なる「自治体直営のワイン」ではありません。それは、「だしかぜ」と「急斜面」という過酷な自然と、公務員醸造家の情熱が織りなす、奇跡のようなワインです。
もしあなたが、まだ見ぬ日本の名ワインを探しているなら、胎内高原ワインは間違いなくその答えの一つです。まずは騙されたと思って、ツヴァイゲルトを試してみてください。グラスから立ち上る香りが、あなたを新潟の急斜面の畑へと誘ってくれるはずです。
参考文献・出典
胎内高原ワイナリー – 胎内市公式サイト
『胎内高原ワイナリー』新潟県胎内市のテロワールを表現する市営ワイナリー – Terroir.media
日本ワインコンクール受賞リスト – 日本ワインコンクール実行委員会


